佐藤大朗キャプテンインタビュー

短いラグビー経験の中でも常に高いレベルを目指してきた
――佐藤選手は入社して4年目で、今年でキャプテン2年目ですよね。ルーキーのころ、公式サイト内の「特集」でインタビューをしましたが、そのとき何を話したか覚えていますか?
「頑張ります」みたいなことを言いましたね。その頃はトップリーグのこともまだよく分からなかったので。
※緑川 昌樹・秦 一平・佐藤 大朗インタビュー(2013年11月29日更新・旧サイト)
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――インタビュー内で、「他の選手に比べるとラグビー経験が短く社会人チームでもうちょっとやったら成長できるんじゃないか」と言われてましたけど、ラグビー経験が短いというのは?
ラグビーは高校から始めたし、そもそも高校のラグビー部が弱いところだったこともありそのように答えました。スキルレベルの高いチームというよりは、「チーム全員気持ちで戦うぞ」という方針だったので。それはそれでとてもいい経験になりましたが、そこから関東大学ラグビー対抗戦グループに所属する慶応大学(慶應義塾體育會蹴球部)に進学して、ラグビーに対する様々な戦略・考え方を学んだり、ラグビーの新しい知識やスキルなど各地域ではレベルの高い選手がたくさんいるってことを肌で感じたんです。だから、さらにもう一つレベルの高い環境に行ったら成長できるんじゃないかと思ってたんです。
――大学から社会人になったときに、大学との違いは感じましたか?
フィジカルの違いはもちろん、トップリーグは試合数が多いし、何よりワールドクラスの外国人選手がいろんなチームにゴロゴロいて、ドコモにもブルソー(ハインリヒ・ブルソー選手)とか、そのときはステダ(スティーブン・セテファノ選手)もいて、彼らから学ぶことは多かったですね。箕内さん(箕内拓郎選手、FWコーチ)とか山田さん(山田和弘BKアシスタントコーチ)とか、日本ラグビー界のレジェンドと呼ばれる人たちと一緒にラグビーできていろいろ教えてもらったし、試合でも「こんなスキルもあるんだ」「こういう強いチームがあるんだ」など学ぶことは多かったです。
――佐藤さん自身、「みんなで頑張ってやろうぜ」っていう高校時代から、いろいろ吸収して変わったところはありますか?
「自分は未熟で足りていないから他人よりも努力しないとやっていけない」という根本は変わらないですね。他の人のプラスαの体づくりやスキルの練習はずっと意識しているので、取り組む姿勢とかも変わっていないです。
――大学とか社会人になった時点で、ここへ来てよかったと思うこととか、そこから得られたものはありますか?
僕は高校時代ディフェンスはほとんどせず、アタック、アタック、アタックみたいな感じだったんです。チーム内では体もデカい方だったし、僕にボール集めてみたいな感じで。でも、慶応大学はまずディフェンスありきのチームだったこともあり、ディフェンスができないとどんなにアタックがよくても使わないんです。そもそもアタック力も高校ではともかく、大学ではズバ抜けた程ではなかったので、大学からはディフェンス、ディフェンスみたいなプレースタイルに変わっていき、ひどいときは試合中に1回もボール触らないこともあったんです。
――ディフェンスがどんどん強くなっていって、結果的には武器になったという感じでしょうか?
そうですね。ディフェンスと、あとは運動量とか仕事量、そういうところで大学のときは評価してもらっていたかなって思います。 社会人になっても、外国人でも日本人でも攻撃力が突出した人は多いので、まずはディフェンスでチームの信頼を得るというか。 とにかく負けて当たり前だと思われているところにチャレンジしにいくっていうのは好きだったかもしれません。あの頃は、別に失うものは何もないので。
近くにいる人たちがいつも手本に
――当時のインタビューでは、栗原大介選手(NTTコミュニケーションズシャイニングアークス所属)が目標だといわれていましたが、今でもそうですか?
今も尊敬している選手で、尊敬する先輩です。 実は、僕も栗原さんとは同じような境遇なんです。公立高校出身で、ポジションもほぼ同じで。大学時代もずっと一緒に練習していたし、近い存在だったので意識していましたね。能力もポテンシャルもすごく高くて、運動量も多く、アタックもできる、ディフェンスでもすごく体を張る、足も速い、そういうところで目標の選手だと言いました。でも、今は、特別意識はしていません。試合は楽しみですけどね。お互いに社会人でこんなプレーできるようになったぜって(笑)
――今目標とする人はいますか?
近くにいる人たちがお手本になるんです。まずは彼らに勝ちたい、彼らに近づきたいって。ブルソーの仕事量とか、ヴィンピーの一発一発のインパクトや激しさとか。そういうところが今は目指すべきところ、目標かなって思います。
自分の軸は「チャレンジしたい」という意欲
――ドコモに入社したきっかけは?
僕はリクルートに大事な大学3年の時に怪我をして1年間プレーできなかったんです。だから一般企業への就職も考えていました。でも、レベルの高いところでラグビーをやってみたいっていう思いはずっとありました。就活では、自分を見つめてみて、自分の軸って何だろうって考えるじゃないですか。それで、自分の軸は“チャレンジ”だなって改めて思ったんです。 だから自分のプレー集みたいな映像を作って、メールで送ったんですけど、最終的にドコモからオファーをもらえて。
――その時ドコモはどんな印象だったんですか?
実はドコモのラグビー、入社するまで見たことなかったんです。「箕内さんとかすごい人がいる、トップリーグに最近上がった勢いのあるチーム」ぐらいしか分からなくて。 でもトップリーグに上がってきていて、今から上に行くぞっていうチームだなと。トップリーグでプレーしたいとも思っていたのもありましたし、チャレンジができるって思いました。
入社3年目のキャプテン就任
――そのドコモへの入社3年目にキャプテンに就任されましたけど、どんな風に声をかけられたんですか?
僕、2年目の第5節で怪我して、そこからずっとリハビリをしていたんですけど、そのシーズンの終盤でワイルドカードに行ったときに下沖さん(下沖前監督)に下駄箱で声をかけられたんです。「次シーズン「キャプテン」ちょっと考えておいてくれるか」と。 いや、なんで僕なんですか、みたいな感じですよね。だって、普通の流れならバイスキャプテンが、という流れがあると思うんで。下沖さんには色々考えがあったようですけど、「佐藤はコミュニケーション取りやすいし、やってくれないか、考えておいてくれ」って言われたんです、その時は。
――で、決意されたんですね。
色々考えてみて、自分の成長とか、チームをよくしたいっていう気持ちも大きかったし、下沖さんも協力してくれるって言ってくれたし、やるしかないなって。 「やるからにはやります」と返事しました。
――1年間やってみてどうでしたか?
正直反省点だらけです。下沖さんには、「おまえは背中で引っ張ってくれ」って言われたんですけど、ほとんど怪我でみんなと練習できていなかった。復帰できるはずなのに再度手術になって、みんながきつい練習している中、僕は地味なリハビリで、一緒にやれなくて。こんな3年目とかの僕が、自分がやっていないのに人に偉そうに言うことはできないだろうって、ずっと悶々としていましたし、「そもそも、僕はみんなにちゃんと認められているのか?」って葛藤もありました。下沖さんとかにも相談して「怪我や3年目というのは関係ない。みんなはおまえのことちゃんと認めているよ。おまえはキャプテンだからみんなの前で意見を言わなきゃ駄目だろう。」って言われたんですけど、なかなか自分から前に出ることが難しかったです。キャプテンとして監督と選手の間をコミュニケーションでつなぐ、そういう役割が全然できていなかったんじゃないかと思います。
――2年目からはその反省点も活かして変われそうですか?
もちろん去年の反省点を生かさなきゃいけない。自分のスタイルとして、背中で見せられたら一番いいと思うので、早くプレーしたいです。昨年は怪我でグラウンドにいなくて、そこで何が起こっているかを把握するにもタイムラグがあったので、今は可能な限り練習をしっかり見て、コーチ・スタッフ陣とも話をしっかりして、選手から意見があったらすぐにスタッフ陣に伝えるようにしています。
昨シーズンはコミュニケーション不足だった
――チームとしての昨シーズンをどう見ていますか?
シーズンに合わせてコンディションをピークに持っていく「ピーキング」がうまくいかなかったなと思っています。プレシーズンに調子のピークが来てしまった。 選手たちの疲労が回復しきれずに、ずるずると下降の歯止めが利かなくなってしまいました。「どうして状態が下がってしまうのか」という本質を見つけられなかったんです。「おれたちは今までこういう厳しい練習をしてきたから、絶対にいけるはずだ。みんな信じて頑張ろう」みたいな声掛けはしていましたけど、本当の原因はどういうところにあるのかっていったら、思い切って休憩することも大事だったのかもしれないし、チームのシステムをもう1回見直すことだったのかもしれない。でも、全員が全員、出口のない状態にはまってしまっていました。
――今シーズンは、その辺りを修正していく必要がありますね?
色々みんなで話し合う中で、その原因の一つはコミュニケーション不足だったのではないかと思っています。もっとコミュニケーションの質と量を上げなきゃいけないなと。 選手とコーチのコミュニケーションもそうだし、選手と選手のコミュニケーションもそうです。例えば「僕はこういうことするからこういうフォローをしてほしい」とか、プレーの短時間の間に声をかけたりするのもコミュニケーションの一つなんで、そういうのがもっと言えるようになってくると、試合中も賑やかになってミスも減って、いい方向に回るんじゃないかなと思います。 今シーズンはヘッドコーチも新しくなるし、「コミュニケーション」というキーワードは大事に持っておきたいです。
ドコモ独自のカラーを作ってトップリーグへ
――今シーズンはトップリーグへの昇格がかかっていますしね。
トップリーグ昇格はもちろんのこと、その先を見据えてやっています。 トップウエストは試合数も少ないし、レベルも下がるのに、そこで満足しているようじゃ昇格後に常勝チームとなることは難しい。 今のチームのレベルじゃトップリーグでは通用しないという意識で自分たちを律して、日々の練習クオリティを上げていく必要はあります。
――先ほどグラウンドでの練習を見ていると、昨シーズンよりも早さがあるなと感じたんですが、チームは少しずつ変わってきていますか?
今シーズンはベーシックなところにフォーカスして、フィジカルを鍛えることと、スキル面においても、タックルやパスなど、本当に基本的なところを一から丁寧にやっています。フィジカル強化にはウエイトにかなりの時間を割いてます。しかし、ウェイトとグラウンドでは筋肉の使い方が違うので、その中間に新たに取り入れた体力的にもきつい「ストロングマン・サーキット・トレーニング」を取り入れることで堅く大きくした筋肉をグランドレベルで効果的なものにするというすごくいいトレーニングの流れになっていると思います。 スキル面においてはパスの一つ一つの精度やスピードとか、基本的な部分にみんな意識を向けてやっています。意識一つで全然違うので。 逆に言えば、チームとしての完成度はまだ高くないんです。一人一人の個人的なスキルは少しずつ上がってきていると思うんですけど、戦術への落とし込みはまだ全然なんで、そういうところはこれからって感じです。 あとは今のドコモには強みとか戦略の特徴がないので、チームとしてのカラーや、周りにどういう風に思われたいか、どういうチームを作っていくかというのをコーチ陣と一緒に話し合っているところです。 今までは監督が持ってきたものをそのままやっていた。でも、一昨年くらいから、「ドコモのラグビーはボールをよく動かして面白い」という評判が聞こえてくるようになったので、そういう点はさらに明確にしていきたいなと思っています。東芝やサントリーやトップリーグの上位チームって、みんなそれぞれのカラーがありますからね。僕らもそういうカラーをつけていかないとだめです。 トップリーグ常連と比べたらドコモは小さいので、フィジカルに頼るようなプレースタイルではなく、低いプレーとかそういうところにこだわりたいとは思っています。
――新加入選手も何人か入りましたが、彼らに期待することは?
チームになじんで、練習も積極的にやってくれていると思います。 小さくまとまらないで、1年目は1年目らしく元気よくやってほしいですね。彼らはトップリーグでやるつもりで入ってきてくれているわけだから、来年度はしっかりトップリーグに再昇格しないといけないと思っています。彼らにもより一層僕らを押し上げてくれるような勢いある選手になってほしいし、一緒にチームを盛り上げてほしいと思います。
応援してくれるファンに恩返しをしたい
――最後にファンに向けて一言お願いしようと思うのですが、そういえば佐藤選手は女性ファンが多かったりしませんか?
おじさんが多いですね。僕は玄人好みなプレースタイルで、花形選手ではないんです。下働きというか、そういうところを見てくれているのはラグビー通のおじさんたちなんです。素人から見たら密集でごちゃごちゃして見えるようなところで仕事をする。あとは、さっきあそこにいたのに今度はここにもいるみたいな、そういうのはラグビーを分かっている人じゃないとなかなか分からない。今あそこでオーバーしたけどここでもオーバーしているとか。ここでタックルして、もう1回タックルしているとか。僕自身も目指すプレースタイルです。もちろん何でもできたほうがいいんですけど。
――では、佐藤選手のファンも含め、チームのファンの方に向けてメッセージを。
降格してしまっても応援してくれている人たちの存在は、選手全員が感じています。去年ぐらいから南アフリカのスター選手が来たっていうのもあって、南港グラウンドでの練習にもファンの人たちが応援しに来てくれるようになったし、ラグビー普及活動でスクールに教えに行った時に、子どもたちや保護者の方が「応援しています」って言ってくださったり。ファンあってのチームなので、ファンへの貢献活動は絶対に続けていきたいし、さっきも言いましたけど昇格は絶対なので、それにプラスαでファンの方たちに「見て楽しいラグビー」で恩返しをしたいと思っています。 選手だけじゃなくてコーチもスタッフも、マネジメントも巻き込んで「ドコモを応援してよかった」って思ってもらえる戦い方をしたいし、結果を残したいです。 シーズン最後にファンの方々と一緒に喜べるよう頑張ります!