コラム

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2021年4月8日公開

第6回

今シーズン、NTTドコモレッドハリケーンズのチームアドバイザーをしております、福富信也です。

今回でVol.6となる当コラムは、チームワークの強化・チーム力の最大化、いわゆるチームビルディングという立場でレッドハリケーンズをサポートする私が、”チームがどのような課題に直面しているのか” “チーム内にどのようなリスクが潜んでいるのか”、そのうえで ”どのような改善策を処方したのか(するつもりか)” をわかりやすくご紹介していきます。

一般的には、技術・戦術・フィジカル的な要素がチーム強化につながる ”重要なファクター” だと認識されていますが、このコラムでは ”チームワーク” という側面からアプローチしていきます。

そして今回は、ファーストステージ 最終戦・神戸製鋼コベルコスティーラーズ戦を前に、私からチームへの想いを文章にしてみました。

それでは、コラムVol.6をお楽しみください。

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第6節ヤマハ戦直前、選手たちに送った動画メッセージ

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早いもので2月20・21日に開幕した今シーズンのTOP LEAGUEは、今週末に開催される第7節でファーストステージ終了となります。

皆さんの目に、今シーズンのレッドハリケーンズのラグビーはどのように映っているでしょうか。チームが一体となり最後まで諦めない姿勢、1%の可能性を信じて相手に立ち向かっていく ”粘りのラグビー” を体感いただけているのではないでしょうか。

チームはここまで6戦して4勝2敗でグループ3位につけています。

レッドハリケーンズが勝利した4試合のうち、なんと3試合が7点差以内の接戦でした。また、最終盤での大逆転勝利が目立ち、ドラマチックな戦いに感動した方々も多いはずです。

さらに、2つの黒星について着目してみると、第4節パナソニック戦は13-26、第6節ヤマハジュビロ戦は21-33、と大崩れしていないことに気づきます。

これこそが、私の求めていた理想のチーム像です。

勝敗というコントロールできないことに振りまわされるチームは、仮に前半で大きくリードを奪われたら、後半は大崩れします。なぜなら、前半終了時点ですでに勝利=目標達成の可能性が大きく遠のいているからです。

しかし、自分たちでコントロール可能なことにのみエネルギーを注ぐよう、徹底して意識改革をした結果、今シーズンはまったく大崩れしなくなりました。「私たちは、応援してくださるサポーターの皆さんに、”素敵な体験”を届ける職業なんだ」と繰り返し伝えてきた効果だと自負しています。どんなスコアになっても、最後まで全力を尽くす、今できるベストを尽くすことでしか人々を感動させることはできません。私は選手たちに言いました。「サポーターは決して勝利だけで満足してくれるわけではない。全力を尽くす姿勢に期待してくれているんだ」と。

そこで今回は、第6節ヤマハ発動機ジュビロ戦当日の朝、私がチームに向けて送った動画メッセージの内容を、ほぼノーカットで書き起こしてみたいと思います。

※動画メッセージの内容につきましては、コラム用に編集しています

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トミです!

ファーストステージ(第5節)日野戦までの5試合、コロナ禍ということもあって、関東に住む僕は試合会場にいける回数が限られていましたが、テレビを通じてレッドハリケーンズの試合を常にチェックしています。いつも感動を本当にありがとう。

ここまで戦ってきた5試合のうち、大切でない試合など1試合もありませんでした。すべての試合に対して、全力で挑んだ結果、幸運にも一定の勝ち星に恵まれました。そして、勝ち星に恵まれたチームだけが、”本当に大切な試合”に出逢う権利を得ることができるのです。僕は長年の経験上、次のヤマハ戦が大一番だと踏んでいます。

仮に、前節の日野戦のように、開始早々にトライが奪えたとしても、勝利が約束されるわけではありません。重要なことは、どんな試合展開になっても、外的要因に振りまわされないこと。気負い過ぎず、過信せず、意気込み過ぎず、チームから与えられた責任を各自が果たし続けることです。

きっと、試合の流れによってはボーナスポイント(3トライ差以上のトライを獲得したチームに勝ち点1を上乗せ)を獲りたいと思うこともあるかもしれません。でも、その欲がチームの一体感を乱し、連帯を失うきっかけにもなってしまいます。

日野戦では、少しだけそんな雰囲気を感じました。幸先よくトライが取れてしまったことで、選手間で少しバラつきが出ていたように見えました。

そういう時こそ、大事にしてもらいたいのが「バランスと勇気」という言葉です。

試合を手堅く進めるためには「バランス」が大切です。しかし、リードを許した時などは「勇気」をもってリスクを負わなければ勝てません。バランスを取り続けていても相手の脅威にはならないからです。

ポイントは、いつリスクを負って、勇気を振り絞るのか、という点です。

選手が個々バラバラにリスクを負ってしまうと統率を失い、逆に隙を与えてしまいます。試合中にチームでしっかりとコミュニケーションを取り、「ここでリスクを負うぞ!」「ここは覚悟を決めよう!」「皆で同じ船に乗ろう!」というように共通認識を図り、15人のパワーを一気に結集させることで、初めて相手の脅威となりうるのです。

その瞬間、ピッチ上の15人だけではなく、ベンチメンバー、ノーゲームメンバー、チームスタッフ、そしてサポーターなどすべての人たちが「勇気」を感じ取り、スタジアムが一体となるのです。そういう状況になれば、苦しい時間帯でも選手は背中を押されるものです。

リーグ5戦で4勝をあげたレッドハリケーンズ。ここまでを振り返ると、試合終盤で逆転する形が続いてきました。サポーターの皆さんは、試合終了のホイッスルの音が鳴る最後の瞬間まで期待してくれています。これは紛れもなく、この5試合で皆が”素敵な体験”を届けられている証しです。

そして、試合に出られていないノーゲームメンバーの存在が非常に大きいと思っております。彼らの熱量はリーグNo.1だと誇りを持っています。ここまでの結果はノーゲームメンバーの熱量のおかげだと思っています。

彼らこそ、見えないところで誰よりも戦っています。彼らは、なかなかリーグ戦に出られないだけではなく、コロナの影響で練習試合さえもままならず、モチベーション維持が非常に困難な状況です。それでもチームプレーに徹し、来る日も来る日も苦しいトレーニングを重ねています。ピッチに立つメンバーは、彼らの思いを背負って戦うことが責務なのです。

そして、スタッフを含め、チーム70人がシーズン終了まで走り続け、最終的に一緒に良い景色を見れるように、と日々共闘しているわけです。

ヤマハ戦、ぜひ悔いのない戦いをしてください。

凡事徹底!

期待してます。

※ノーゲームメンバー:ラグビーは試合に先発出場する15名に加え、ベンチメンバー(交代要員)が8人までその試合の出場可能選手として登録が可能です。ノーゲームメンバーとは、対象の試合で登録外となった選手のことを指します

このタイミングでメッセージ動画を送ったわけ

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私が、なぜヤマハ戦を前に動画メッセージを送ったのか ―

私は試合のたびにメッセージ動画を送っているわけではありません。第2節のNECグリーンロケッツ戦以来、今回が2度目でした。理由はシンプルで、今シーズンの大一番だと判断したからです。「ヤマハは第6節レッドハリケーンズ戦で、今シーズンのベストパフォーマンスをするだろう」と私は予測し、それを一部のスタッフにも伝えていました。そう予測した理由はいくつかありますが、その一部を以下に挙げます。

  • ヤマハはドコモに勝てば3位浮上のきっかけを作れる
  • 今シーズンのドコモを例年以上に警戒している
  • チーム功労者である五郎丸歩選手が引退表明し、一緒に戦える試合が限られている
  • 今シーズン出場機会が少ない五郎丸選手の先発メンバー入りがすでに発表されている

自分たちの順位上昇、ドコモへの警戒、五郎丸選手への敬意など、ヤマハが実力発揮するためのあらゆる好条件が揃ったのが第6節だったのです。そのため、私は五郎丸選手がメンバー入りするかどうか、木曜日の発表を見届けてからメッセージ動画を作成しました。

対戦相手の事なので推測の域を出ませんが、特に五郎丸選手の先発メンバー入りは大きいと感じていました。

私が過去に関わってきたサッカー界のスーパースターで、サッカーJ1のヴィッセル神戸にかつて在籍していたダビド・ビジャ選手(元スペイン代表)は、2019シーズン途中に突然の引退表明をしましたが、その後、チームは負け知らずで天皇杯優勝まで上り詰めました。

また、20年以上前の話になりますが、1998年に当時Jリーグに所属していたクラブチーム、横浜フリューゲルスが経営上の理由から消滅すると報道された後、選手たちはチームの存在価値を証明したい一心で血眼になって闘い、公式戦9連勝を記録。最終的に(プロアマと問わず、国内のサッカークラブNo.1を決めるノックアウト形式で開催される大会)天皇杯において優勝を成し遂げました。

これらの事例からも分かるとおり、「この人(メンバー)と少しでも長くプレーしたい」「この人とプレーできる貴重な時間を大切にしたい」という思いがパフォーマンスに好影響をもたらします。”単なる勝利” 以上の重みと価値を感じる時、チームは潜在能力を発揮しするのです。

今回のヤマハは、功労者である五郎丸選手へのリスペクトという、十分過ぎる大義名分があったと考えることができます。

ベストパフォーマンスを発揮してくる可能性のある相手に対し、私たちができることを、このタイミングで見つめなおす必要がありました。

「バランスと勇気」で、したたかなゲームコントロールを

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勝利することは嬉しいことです。しかし、サポーターの皆さんが本当に欲しているのは単なる勝利ではなく、選手が連帯し、躍動し、それぞれの特徴が混ざりあい、最後まで闘う姿勢を見せてくれることだと私は思っています。

本当に感動した試合は、翌日になっても余韻を楽しめます。退屈な勝利など欲していないはずです。

だからこそ、私たちレッドハリケーンズには「このくらい頑張ればいいだろう」という終わりは存在しません。私たちが皆さんに提供したい”素敵な体験”に終わりはないのです。

現状、残り10分で相手にリードを許していたとしても、「必ずひっくり返せる」「必ずチャンスはくる」という気持ちで、チームとサポーターが一体となって戦えているのではないでしょうか。ただし、まだまだ圧勝できるような実力が備わっているわけではなく、「どちらに転んでも不思議ではない試合をギリギリでモノにしてきた」という事実を受け入れ、謙虚さを胸に刻まねばなりません。

ここまでを振り返ると、「勝利」というコントロールできないコトにモチベーションを左右されず、コントロール可能なコトにのみ関心を持つ、というマインドが根付いてきた実感はあります。大敗することがなくなったことが、何よりの証しです。どんなスコアになろうともサポーターに「素敵な体験」を届けたいという使命感と志が育ってきたように感じます。

ファーストステージ最終節はリーグ屈指の強豪・神戸が相手です。この相手にレッドハリケーンズのラグビーがどこまで通用するか、進化と真価が問われます。

このコラムで繰り返しお伝えてしていますが、大切なのは「凡事徹底」と「脇役の熱量」です。そして、ノックアウト方式のプレーオフトーナメントへの備えも必要な時期だと思っています。プレーオフトーナメントでは、リーグ戦のように引き分けで勝ち点を分け合うことはできません。必ず勝敗を決する必要があるそのため、より一層「バランスと勇気」を上手に使い分けることが肝となります。

したたかにバランスを取りつつも、試合の流れを読み、タイミングを見計らい、勇気をもってチーム一丸でリスクに挑む決断力を備えたいところです。

チームの根っこ

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今回のコラムの最後に、試合に出ていないメンバーについて、もう一度触れたいと思います。

現在のレッドハリケーンズは、彼らがいるからチームが存在します。その重要性は理解しつつも、誰もがピッチに立ちたいと願い続けているのも事実です。

なかなかメンバー入りできない現実を受け入れられず、自己嫌悪に陥ることもあるでしょう。自暴自棄になりそうなことだってあるでしょう。人やモノや環境のせいにしたくなる時もあるでしょう。時には、愚痴や文句の1つも言いたくなるでしょう。シーズンも終盤に近づくと、来シーズンのことが頭をよぎり不安に駆られる選手だっているでしょう。毎日想像を絶する厳しいトレーニングをしても練習試合がない今シーズン、朝起きて気持ちを奮い立たせることが難しい日もあるでしょう。

しかし、そんな選手たちはインテグリティ(高潔さ)を忘れず、自らの存在価値を証明し続けるため、必死に戦っています。「草に根」「人に心」、大切なモノは見えないところに存在します。大切なモノは見ようと意識しなければ見えないのです。レッドハリケーンズにとって大切な存在は、試合に出ていない選手たちです。

サポーターの皆さん、ぜひ見ようと意識しなければ見えない部分に注目してみてください。今シーズンのドコモの粘り強さの秘訣が見えるはずです。彼らは、大きな葛藤と戦いながら、自制心と高潔さで日々研鑽しています。現在はコロナの影響で練習見学していただくことができませんが、見えないところで「根っこ」としてチームを支える心強い存在を誇りに思っていただけると嬉しいです。

今回のコラムは以上となります。

チームスローガン「PLAY TO INSPIRE」の精神を胸に、凡事を徹底し、戦う姿勢、諦めない姿勢、勝利の可能性を1%でも高める姿勢を示し続ける戦いぶり……そんなレッドハリケーンズらしいラグビーをみせてもらえることを期待したいです。

きっと、応援してくださるファン・サポーターのために、さらなる高揚を届けてくれるはずです。ぜひとも、皆さんの応援でチームを後押ししてください。宜しくお願いします。

Profile(プロフィール)

福富信也(ふくとみ・しんや)
Jリーグ「横浜F・マリノス」のコーチを経て、2011年東京電機大学理工学部に教員として着任(サッカー部監督兼務)。また、その傍ら、チームのメンバーが互いに違いを認め、尊重しあい、永続的に学びと発展のあるチームづくりを支援する株式会社Humanergy(ヒューマナジー)を2015年に設立。

【実績 等】
日本サッカー協会公認指導者S級ライセンス(Jリーグ監督必須ライセンス)で講師を務め、Jリーグトップチームや年代別日本代表を指導。2016-17シーズンに「北海道コンサドーレ札幌(J2優勝|J1昇格・定着)」、2018-19シーズンに「ヴィッセル神戸(天皇杯優勝:ACL 出場権獲得 / ゼロックススーパーカップ優勝 等)」。その他、企業を対象にした研修実績も豊富。雑誌連載、新聞取材、テレビ・ラジオ出演など多数。著書に「脱トップダウン思考」他2冊。

参考)
2020年度チームアドバイザー就任のお知らせ https://docomo-rugby.jp/news/detail.html?id=4202
株式会社Humanergy: https://huma-nergy.com/