コラム
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第4回
今シーズン、NTTドコモレッドハリケーンズのチームアドバイザーをしております、福富信也です。
第3節リコーブラックラムズ戦、感動しました。
前半40分過ぎ、自陣深い位置で相手パスをインターセプトし、約90m近くを独走した小林正旗選手のトライ。そして試合終了間際の後半39分、こちらも自陣深い位置からTJペレナラ選手、マカゾレ・マピンピ選手、トム・マーシャル選手とつなぎ、最後は再びペレナラ選手へとわたった決勝トライ。
一度相手にかわされてもダイビングしながらタックルするベンジャミン・ソーンダース選手のプレーも印象的でした。また、シンビンで1人少ない中でも、キャプテンのローレンス・エラスマス選手を中心にスクラムやディフェンスで80分間体を張っていたFWの選手たちは間違いなく勝利の立役者です。
どのプレーからも、選手たちの『闘争心』『1分1秒、諦めない姿勢』を存分に感じていただけたはずです。
まさに、今のレッドハリケーンズは「ONE TEAM」という言葉がふさわしいチームへと生まれ変わってきています。
ただし、まだ成長段階であって、決して成熟したチームとは言えません。勝利に浮かれて気を緩めたら、すぐに結果として反映されてしまうでしょう。皆さんの厳しい目が、チームの成長を後押しします。ぜひチームにさらなる声援をお願いします。
さて、当コラムは、チームワークの強化・チーム力の最大化、いわゆるチームビルディングという立場でレッドハリケーンズをサポートしている私が、”チームはどのような課題に直面しているのか” “(表面化していない課題も含め)今後どのようなリスクが潜んでいるのか”、そのうえで ”どのような改善策を処方したのか(したいと思っているのか)” を、わかりやすくご紹介する記事になります。
現在、レッドハリケーンズの選手・関係者は、開幕3連勝により「追い求めるチーム像、ラグビースタイルは決して間違いではなかった」と感じているはずです。だからこそ私は、日本代表選手や強豪国の代表クラスの選手を多く擁する、次節のパナソニック ワイルドナイツ戦が重要だと捉えています。強豪相手に、自分たちのラグビーがどれだけ通用するのか、チームの立ち位置と成長を確かめる絶好の機会です。
今回のコラム(Vol.4)では、今シーズンのレッドハリケーンズにとっての「最重要テーマ」に迫っていきたいと思います。最重要テーマとはいったい何なのか。それは、試合への出場機会に恵まれていないメンバー、つまり脇役の存在に関することです。脇役が主役級に頑張るチームこそがONE TEAMなのです。本当の意味で一体感のあるチームをつくる際、”脇役こそがカギを握る存在なんだ” ということを選手たちに伝えてきました。
今回のコラムは、応援してくださるファン・サポーターの皆さんはもちろんのこと、今一度あの時のミーティングを思い出す意味を込めて、選手・チーム関係者の方にぜひ読んでいただきたい内容です。
それでは、コラムVol.4をお楽しみください。
Vol.1を読む方はこちら Vol.2を読む方はこちら Vol.3を読む方はこちら“一体感” というのはどのような状態を指すのか

画像)NTTドコモレッドハリケーンズ提供
皆さんは、”メンバー全員が1つの目標に向けてまとまっているチーム状態のこと” を、どのように表現しますか?
きっと多くの方が「一体感」「チーム一丸」という言葉で表現すると思います。
ちなみに、この何気なく使ってしまう「一体感」という言葉ですが、皆さんは「一体感」を意図的に生み出すことはできると思いますか。
実は、できるのです。
ところが、サッカーの日本代表で活躍した選手たちでさえも、一体感の重要性は認識しているものの、その生み出し方まではわかっていませんでした。そして、かく言う私も、一体感を生み出す方法を理解するまでにずいぶんと時間を要しました。
何気なく使ってしまうこの便利な言葉。なのに、上手く説明できない感覚的な言葉。そんな「一体感」ついて、まずは私なりの考えをお伝えさせていただきます。
一体感とは……「脇役が本気になっているチーム状態」を指す言葉
私の経験上、一体感とは「脇役が本気になっているチーム状態」だと理解しています。
この言葉の中にある “脇役” というのは、ピッチに立っていない選手、チームスタッフ、フロントなどを指しております。もっと俯瞰的に捉えれば、ピッチに立つことはできないけれども一緒に戦うファン・サポーターの皆さんもここに含まれるかもしれません。
主役はもちろん、本来であれば脇役と呼ばれる存在までもが “主役たる熱意と責任感” をもってチーム活動に参画している状態こそ「一体感」という表現がふさわしいと思います。
タイラー選手とマピンピ選手が過去の経験をチームに共有

私は、ミーティングを型にはめないよう常に心がけています。選手が受け身にならないための工夫と準備をして臨む一方で、選手たちの興味・関心に合わせて臨機応変に流れを変えていきます。この舵取りは、入念なシュミレーションと経験がなければ失敗に終わります。
ミーティングは通訳を交えるため、単純に時間は2倍かかります。ですから、選手たちの集中力が切れることも想定しなければなりません。天気が悪い時、朝早い時は、選手たちのテンションが高くないこともあります。今回のミーティングでも、急遽、予定になかったトークタイムを設けました。私からの話が10分以上続いたので、選手を主役にしたワークを入れた方がいいと感じたからです。
そこで、3~4名のグループに分かれてもらい、以下の2つのテーマを伝え、選手同士が過去の経験を共有し合うトークタイムを設けました。
1)自らが控え選手だったにも関わらず、本気でチームのために頑張れた経験
2)控え選手だった際、モチベーションが下がり、チームに貢献できなかった経験
私もいくつかのグループを見てまわり、どのようなストーリーを共有しているのか、興味深く聞かせてもらいました。
選手たちは、苦しかった過去の心境や葛藤、そしてそれをどう乗り越えたのかを思い出し、感慨深げに話をしていました。また、聞いている選手も、仲間の体験を自分自身と重ね合わせながら真剣に耳を傾けていました。お互いの過去を振り返りつつも、各々が今シーズンの決意表明をしているかのような時間でした。選手たちの表情は穏やかでしたが、そこには確かな熱量が感じられました。
そして、「これはチーム全体でシェアしなければもったいない」「次にこんなチャンスが来るのはいつになるかわからない」という私の直感が働き、タイラー・ポール選手とマピンピ選手にお願いし、自身のエピソードを全体共有してもらうことにしました。なぜ2人を選んだのか、また機会があればその理由を明かしたいと思います。
ここでは、2人のエピソードをご紹介します。彼らの情熱と人柄が伝わってくる内容です。
タイラー・ポール選手

この場にいる選手全員、誰もが、毎週やってくる試合に出場したいと思うのは当然です。それは私も同じです。ただ、メンバー入りは「23人」という制限があり、「出場したい」という希望が常に叶うわけではないことも当然わかっています。もちろん、23人の枠に入れなければ悲しいし、何故自分がその枠に入れなかったのかという理由を知りたいというのも当然です。
ただし、23人から外れた選手が何もしなくていいかというと、そうではありません。試合に出場できないからといってチームにおける役割が何もないわけではなく、むしろ出られないからこそ、”チームのために” とならなければなりません。
なぜかというと『僕らのチームを代表して戦う仲間のためにも』だからです。そして、『僕らを支えてくれる全ての人のためにも』だからです。
ただ、正直、それが口で言うほど簡単なことではないことも理解しています。気持ち的には辛いと思います。何とも言えない気持ちであり、切り替えるのが大変だと思います。皆それぞれ思うこともあるだろうし、そうした気持ちを抑え、どうにか耐え、チームのためにできることをやらなければなりません。やはり大事なのは「チームファーストの心」なんです。
個人的な感情というのは可能な限り抑えて、チームのために貢献できるようにやっていけたらいいのではないか、先程のグループで私はそういう話を共有していました。
マカゾレ・マピンピ選手

これは私が実際に経験したことで、あまり試合に出場できず苦しんでいた頃の話です。当時の私は、いつも「なぜ自分を起用してくれないんだ」「(出場している仲間に対して)なぜあんなプレーをするんだ」とベンチでよく文句ばかり口にしていました。悔しかったんです。単純に起用してもらえないことに苛立っていました。納得できないでいました。
でも、ある時、ふと「本当のところ、自分は何が理由で試合に出場できないのか」というのを考えたんです。その時、素直に思いました。自分がチームに貢献できていないんだ、と気づいたんです。
当時の私は、いつも自分のプレーや評価ばかり気にしていました。そして先程のグループでディスカッションをしていた時に、タイラーの話を聞いてそのことを思い出しました。私も思い悩んだ時期にそれを克服できた理由は、「チームファーストの心」を第一に考えるようにしたからでした。
「チームのために」「チームの一員として」と、常に考えるようにしたんです。試合に出場できる時もそうでない時も、チームのために何ができるだろうと考えるようにしました。それ以来、すべてが好転し始め、チームからも次第に評価してもらえるようになりました。
皆の前で、自らの経験や考えを発表してくれた2選手には本当に感謝です。
グループでのトークタイムでは、もっと深い内容を話していたと記憶しています。私の聞いた限りで要約すると「才能を個人のために使わない。チームのために使うんだ」という趣旨の発言だったと思います。遠い母国から海を渡り来日し、そんな熱い想いをもってレッドハリケーンズでプレーしてくれていることを知り、私は素直に感動しました。
過去のスポーツ事例からみる!脇役がチームの大勝利を支えた実績
ここでは、実際に「脇役が主役級の役割を担った」スポーツ事例をご紹介します。
1998年の冬、長野オリンピックで私たちに大きな感動をくれた、日本の男子スキージャンプ(団体)の話です。脇役が主役級の活躍をみせたことで、絶体絶命の大ピンチから、見事な大逆転で金メダルを獲得したというお話です。
当時、男子のスキージャンプ日本代表は、世界ランキング上位者が多く、船木和喜選手を筆頭に、ベテランの原田雅彦選手、岡部孝信選手、斎藤浩哉選手と実力者が揃っていました。もちろん、前評判も高く、大会前からメダル獲得が有力視されていました。
ちなみに、スキージャンプの団体戦というのは、各国4人が2回ずつ飛び、①各選手の飛んだ距離から算出する「飛距離点」、②ジャンプの美しさ・正確さ・着地姿勢 等から算出する「飛型点」、これらの合計ポイントを合算して順位を競います。
メダル獲得が有力視されていた日本でしたが、点数が伸び悩み、4人が1回ずつ飛び終えた時点で、4位と苦戦を強いられてしまいます。そんなタイミングで、天候が悪化して猛吹雪となり、視界不良と強風で競技が中断されてしまったのです。そして、このまま天候が回復しなければ競技続行は不可能と判断され、規定により日本は4位でフィニッシュとなってしまう絶体絶命の状況にありました。
再開か。それとも中止か―
そこで立ち上がったのが、25人のテストジャンパーたちでした。彼らは、4人の日本代表選手らとともに、このオリンピックの出場枠を競い合ったライバルであり、選考に敗れた選手たちでした。
”25人が安全に、飛距離を確保してジャンプすることができれば競技続行” という判断が下ったのです。
このまま4位で終わらせるわけにはいかない。25人の力を結集させて、飛べることを証明し、悲願の金メダルに望みをつなごう。
25人のテストジャンパーたちは、そんな風に決意を固めていたと思います。ただ、その決意も簡単なことではなかったはずです。
本当であれば、自分がオリンピックに出場しているはずなのに……と、テストジャンパーという事実を受け入れられなかった選手もいたことでしょう。でも、そういった選手も気持ちを切り替え、命の危険を顧みずジャンプしたのです。25名のテストジャンパーは「for the Team」の精神で、今の自分が託された役割を全うしてみせました。
結果は、25人全員成功。そして、競技続行。
25人の脇役たちの想いを背負った4人の選手たちは、大ジャンプを連発して、最後の1人で大逆転、見事に金メダルを獲得したのです。
競技終了後、ベテランの原田選手にスポットライトが当たります。インタビューに応えていた原田選手は「俺じゃないよ、みんななんだ、みんな……」泣きながら言葉に詰まっていたシーンは有名です。テレビで観ていた日本中誰もが「みんな=チームメイトの3人」だと思い込んでいたわけです。その後、私は25人のテストジャンパーの存在を知り、「みんな」の真の意味を理解したのです。
この事例は、まさしくタイラー選手、マピンピ選手が語ってくれたエピソードと同じです。出場できない状況を受け入れ、気持ちを切り替えることは簡単なことではありませんが、チームのためにできることをやり抜いた、脇役の勝利なのです。
脇役の存在こそが躍進のカギ!チームが1つになるための必須条件

画像)NTTドコモレッドハリケーンズ提供
脇役が本気のチームは強い
脇役の思いを背負ったチームは強い
主役になれない人が鍵を握っている
脇役が脇役として主役級の活躍をする!
主役が脇役に感謝する!
全員が綺麗な花になれないことを知っているチームが強い
綺麗な花も、茎や葉がなければ咲けない
泥の中、見えないところに大事な根が張っている
私は、今回のコラムを通じて、脇役の重要性をお伝えしたいと考えていました。まさに上の言葉に凝縮されていると思っております。
人は1つのものを見ようと思うと、それ以外のものが目に入らなくなってしまう生き物です。だからこそ、パラダイムシフト※ していかなければなりません。
※パラダイムシフトとは、当たり前だと思われていた物の見方・考え方を劇的に変える必要があるということを指しており、定義をくつがえす、ステレオタイプを捨てるという意味
全員を主役にする方法は簡単です。
チームメンバーを15人しか集めなければいいのです。
しかし……。
15人しかいないラグビーチームを想像してみてください。
紅白戦はできません。
紅白戦がしたければ30人にすればいいでしょう。
では、30人しかいないラグビーチームを想像してみてください。
たった1人がケガをしたら、またしても紅白戦ができません。
勝利のために激しい練習をしていくためには、30人でもまったく足りないのです。
現在レッドハリケーンズには、約50名の選手が在籍していますが、全員の存在が欠かせないのです。必ず一人ひとりに存在価値があります。それを見出せないチームには「一体感」は備わりません。お互いの存在意義に気づき、感謝し、関心を示し合ってほしいと思います。
また、日本語には「競争」という言葉と「切磋琢磨」という言葉があります。競争は「勝ち負け・優劣を人と競り合うこと」を指し、切磋琢磨は「お互いに高め合う」という意味があります。競争は、一歩間違うと「足の引っ張り合いや蹴落とし合い」につながってしまいます。「蹴落とし合い」はチーム内に敵を作ることになり、「一体感」とは真逆の行為になっていきます。
ちなみに、そのような「仲間のやる気を削ぐ」行為は、結果的に「自分の夢も遠ざけてしまう」ことになります。なぜなら、やる気を失った仲間と紅白戦をしていても、自分の成長が鈍るからです。チームメイトは蹴落とす対象ではなく、高め合う仲間でなければならないのです。

現在、リーグ戦は3節が終了しました。ここまで試合出場している選手であっても、出場機会が減ってくることはあり得ます。先ほどのタイラー選手とマピンピ選手の言葉にもあったように「チームファースト」を貫けるかが「一体感」のポイントです。
そのためにも、試合に出ている選手が周囲を見渡し、出場機会の少ない仲間に感謝し、全体の士気を高めるようなアクションをとることが必要です。
また、リーグ戦が進むに連れて、ケガ人も増えてくるのは当然です。ケガしたメンバーは、全体練習から外れて別メニュートレーニングとなるので、チームメイトと顔を合わせる機会が減ります。それを放置していると、思いがけずそこに溝が生じてくるものです。それを防ぐためには、常にお互いが関心を寄せ合い、コミュニケーションを図ることです。
Vol.3でご紹介したヨハンのメッセージにもあったとおり、短い時間でも良いのでコーヒーを片手にお互いを「INSPIREする」時間をつくれるかどうか。その積み重ねが、一体感という目に見えないパワーを生み出すのです。
今回は、一体感というテーマのもと、脇役の存在にフォーカスしました。
試合に出場しているメンバーではなく、それを支える脇役(控え選手、フロントスタッフ、サポーターなど)が主役級の存在感を発揮している状態こそが真の「一体感」であり、”脇役の存在こそが勝敗を左右する” というテーマの話をさせていただきました。
試合の主導権は主力の実力で決まる。しかし、勝敗は脇役の熱量が大きく左右する。
これまでの指導経験から、私はこのように感じています。
2020-21シーズンのファーストステージも折り返しを迎えます。ここまでレッドハリケーンズは3勝0敗でグループ3位につけています。チームも、個々も、着実に力をつけており、成長しています。次節、第4節は常勝チーム「パナソニック ワイルドナイツ」との一戦です。この試合こそ、今のレッドハリケーンズの真の力を知る絶好の機会と言っても良いでしょう。
きっとレッドハリケーンズは、チーム一丸となって1つの生命体の如く躍動してくれるはずです。
皆さん、ぜひ熱い声援を最後までお願いいたします。
Profile(プロフィール)
福富信也(ふくとみ・しんや)
Jリーグ「横浜F・マリノス」のコーチを経て、2011年東京電機大学理工学部に教員として着任(サッカー部監督兼務)。また、その傍ら、チームのメンバーが互いに違いを認め、尊重しあい、永続的に学びと発展のあるチームづくりを支援する株式会社Humanergy(ヒューマナジー)を2015年に設立。
【実績 等】
日本サッカー協会公認指導者S級ライセンス(Jリーグ監督必須ライセンス)で講師を務め、Jリーグトップチームや年代別日本代表を指導。2016-17シーズンに「北海道コンサドーレ札幌(J2優勝|J1昇格・定着)」、2018-19シーズンに「ヴィッセル神戸(天皇杯優勝:ACL 出場権獲得 / ゼロックススーパーカップ優勝 等)」。その他、企業を対象にした研修実績も豊富。雑誌連載、新聞取材、テレビ・ラジオ出演など多数。著書に「脱トップダウン思考」他2冊。
参考)
2020年度チームアドバイザー就任のお知らせ https://docomo-rugby.jp/news/detail.html?id=4202
株式会社Humanergy: https://huma-nergy.com/