コラム

特集・動画

2021年2月25日公開

第2回

今シーズン、NTTドコモレッドハリケーンズのチームアドバイザーをしております、福富信也です。

皆さん、レッドハリケーンズにとっての2020-21シーズンの開幕戦「vs キヤノンイーグルス」、ご覧いただけましたか。

最終的には大接戦を制し、見事に開幕戦で勝利を掴み取ってくれました。26-24というスコアからもわかるように、前・後半とおして、80分間、気の抜けない緊迫したゲームでした。

前半8分、レッドハリケーンズは、自陣トライゾーン手前で(相手ボールのスクラム時の)繰り返しのコラプシングからシンビンとなり、10分間1人少ない数的不利というピンチを迎えてしまいます。しかし、そこでチームは決して慌てず冷静に対処し、無失点で、いや、正確にはむしろPGで3点を奪いリードして、その苦しい時間をしのぎました。開始15分間の相手の猛攻を失点0で堪え切れたことは、まさにチーム力だと言えます。ここで崩れていたら、まったく違うゲーム展開になっていたことでしょう。そして、前半を6-14の8点ビハインドで終えたレッドハリケーンズは、後半10分過ぎから反撃を開始します。最も体力的にも苦しくなってくる時間帯で徐々にボールを保持できるようになり、18分にTJ・ペレナラ選手、26分に李智栄選手、32分に茂野洸気選手がトライをあげて一気に逆転。その後も、低いタックルで相手の突破を食い止め、細かい反則を誘発させ、自分たちのペースで優位に試合を展開していきます。

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ゲームが切れる毎に、選手たちは素早く1つの輪になってコミュニケーションを図り、試合中では選手同士が積極的に声を掛け合い、仲間を鼓舞し合っていたこの日のレッドハリケーンズ。特に印象的だったのがクライマックスでのシーンです。後半39分の相手ペナルティで得たPGで、川向選手がボールをセットしている際、ベンチメンバー全員が起立して肩を組み、その様子をじっと見つめていました(上画像)。その後、川向選手の足から放たれたボールはゆっくりと綺麗な弧を描き、レフリーのPG成功を告げる笛の音が響いた際、選手たちが川向選手のところに猛スピードで駆け寄っていく、というシーンには本当に心を打たれました。

まさに、選手たちは「最後まで闘い続ける姿勢、1%の可能性がある限り努力を惜しまない、for The Teamの精神でチャレンジし続ける」ラグビーを80分間みせてくれました。

当日、私もスタンドで観戦しておりましたが、夜まで興奮がやむことはありませんでした。きっと皆さんも同じ気持ちだったのではないでしょうか。帰宅する電車の中、車の中、夕食の話題さえもレッドハリケーンズの劇的な逆転勝利でもちきりだったはずです。

ワクワクしますよね。早くも次週の試合が待ち遠しい、そんな想いを強くしているはずです。

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緊急事態宣言の影響もあり、直接的にチームにメッセージを伝えに行けなかったため、
開幕戦直前にチーム全体に向けて展開されたビデオメッセージ

すみません、開幕戦での感動が抑えきれず、前置きが長くなりました。

さて、今回初めて当コラムをご覧いただく方もいるかと思いますので、簡単にご説明をさせていただきます。

当コラムは、チームワークの強化・チーム力の最大化、いわゆるチームビルディングという立場でレッドハリケーンズをサポートしている私が、”チームはどのような課題に直面しているのか” “(表面化していない課題も含め)今後どのようなリスクが潜んでいるのか”、そのうえで ”どのような改善策を処方したのか(したいと思っているのか)” を、わかりやすくご紹介する記事になります。

ちなみに、前回(当コラムVol.1)は、「チームが目指す姿」「チームの存在意義・使命」「企業のシンボリックスポーツとしてのあり方」「そのためのマインド」という内容をお伝えしました。

そして、Vol.2となる今回は、チームのミッション、ビジョン、バリューというテーマでお話をしていきたいと思っております。

当コラムを通じて、今シーズンのレッドハリケーンズを応援・サポートしていくうえで、普段は垣間見ることのできないチームの内面をもっと知っていただき、さらに熱くチームを鼓舞する声援を送っていただくきっかけになればと思っております。

それでは、コラムVol.2をお楽しみください。

Vol.1を読む方はこちら

今さら聞けない!ミッション、ビジョン、バリューの基礎知識

まず初めに、今回のコラムの中心的ななワードである、ミッション、ビジョン、バリューの意義についてお話をしていきたいと思います。

ミッション

一般的には、そのチームの「社会的使命」「存在意義」などが、端的な表現でまとめられていることが多く、”対外的”なメッセージになります。ビジネスシーンで例えるならば、「企業理念」に該当します。

ビジョン

どのような姿で(目標達成を通じて)ミッションを追求するのかがビジョンとなります。これは 対外的に発信するミッションとは異なり、”チーム内”に向けたメッセージになります。ちなみに、ビジョンは、組織の「あるべき姿」を挙げることが多く、場合によっては「具体的な数値目標と達成期限」を掲げている場合もあります。

バリュー

バリューは、ミッション、ビジョンを実現していくうえでメンバーが大切にすべき価値観(具体的な行動・思考)を指します。こちらは ”対メンバー”に向けたメッセージになります。

参考)
脱トップダウン思考 - スポーツから読み解くチームワークの本質 - 著者:福富信也

上記に挙げたように、すべてのチームは、ミッション、ビジョン、バリューに基づき、共通の価値観や理念に賛同した人が集まることが大切です。

その理由は、新たなチームやプロジェクトをスタートさせる際、ミッション、ビジョン、バリューという根幹部分(目指すべきゴールや大切にしたいプロセス)でズレが生じてしまうと、あらゆる取り組みがかみ合わなくなってしまうからです。

ちなみに、予めそれらを明確にしておくメリットが2つあります。

▼1
チームが実現させたい世界観を周囲に発信できるということです。そのチームのアイデンティティが明確になり、他の類似チームとどこが異なるのかが明確になります。

▼2
その想いに共感する、熱くなれる仲間だけを集めることができるため、エントリーマネジメントの効果があります。つまり、チームの根幹たる想いに共感できないメンバーはそもそも集まらない、と言い換えることもできます。

”目標の魅力”だけでチームに加入してしまうと、あとになって”目指す世界観”の違いが浮き彫りになったり、プロセスで食い違いが生じたりして、「こんなはずでは……」となってしまうことがあります。つまり、目標の一致だけではチームになれないのです。

目標を達成した先にどんな未来を実現させたいのか(ミッション)、そしてどんな姿でミッションを追求していくのか(ビジョン)、そのために個々がどんな価値観=行動・思考を大切にしていくのか(バリュー)、これらが浸透することでチームに魂が宿るのです。

レッドハリケーンズにおけるミッション・ビジョン・バリュー

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ここまでは、ミッション、ビジョン、バリューの基本的概念についてまとめました。

そして、ここからが本題となります。続いては、前述のミッション、ビジョン、バリューを今シーズンのレッドハリケーンズにあてはめて考えてみたいと思います。

ちなみに、今シーズンのレッドハリケーンズの「チーム理念」「チームスローガン」は、Webサイト上で以下のように紹介されています。

Team Philosophy

私たちはラグビーを通じて夢と感動を創り、社会に貢献できる人間となる

Team Slogan

PLAY TO INSPIRE

それでは、これらを順にご説明していきます。

レッドハリケーンズのTeam Philosophy「ラグビーを通じて夢と感動を創る」、それこそがミッションに該当します。そして、Team Philosophyで発信した未来を実現させるための私たちレッドハリケーンズの “あるべき姿” というのが「PLAY TO INSPIRE(=スローガン)」となります。 チームスローガン「PLAY TO INSPIRE」は上記のとおり、「レッドハリケーンズに関わる、全ての人々に対して、選手・スタッフ一人ひとりが、良い影響を与え続ける」という意味が込められたメッセージです。上記にも記載されてますが、具体的な数値目標も含まれています。今シーズンのレッドハリケーンズは、過去に成し遂げたことのない「8位以内」を目指しています。

そして、最後はバリューについてです。Vol.01の記事内でもお伝えした、現在チームに設けられている下記10個の約束こそが、レッドハリケーンズのバリューになります。今まさに、チームはその徹底を目指しています。

  1. 自ら判断し、行動する
  2. 規律を守る
  3. 何事にも手を抜かずハードワークする
  4. あらゆる準備を怠らない
  5. オンオフを切り替える
  6. 味方を敬い、助け合う
  7. 当たり前をあたりまえにする
  8. チャレンジし続ける
  9. 自己管理を徹底する
  10. チームファーストで考える

これらをみてもお分かりいただけると思いますが、その内容は、いわゆる “ラグビー特有” のものではなく、ひとりの人間として誰にでも求められる”当たり前なこと”ばかりが並んでいます。そんな”当たり前なこと”を選手が愚直に取り組むからこそ、応援してくれる皆さんにとって選手を身近に感じることができるでしょうし、それを徹底追求する姿で感動や勇気を届けることができると信じています。

ラグビーは決して、強靭な肉体と運動神経に恵まれた人たちが紡ぎ出す、特別なストーリーではないのです。”当たり前”を地道にコツコツと継続し、大きなことを成し遂げるプロセスを感じていただき、応援してくださる皆さんを勇気づけたいと思っています。

以上、ここまでが、レッドハリケーンズにおける、ミッション、ビジョン、バリューでした。

バリューの徹底理解が選手の自立を促す⁉

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ここまでご紹介したように、ミッション、ビジョンを明確にし、そのうえでチームにおけるバリューがきちんと定義されていれば、選手一人ひとりが判断に迷った際の道しるべになります。

例えば、私生活で夜遅くまで面白いテレビ番組がやっていて「もっと見たいな、でも寝るべきかな」と迷いが生じたとします。そんな小さな迷いであっても、バリューが答えを示してくれるのです。「あらゆる準備を怠らない」ことが「何事にも手を抜かずハードワークする」ことに直結するわけですから、「テレビはやめて十分な睡眠をとろう。そして、明日の激しいトレーニングに備えよう」という行動に繋がるわけです。

そして、選手・スタッフ約70名全員が、日常のあらゆる行動選択において、バリューを基準に判断できるようになったとき、いよいよ今シーズンのTOP LEAGUEにおいて”8位以内”というのも現実味が帯びてくるはずです。真のアスリートがなぜ尊敬を集めるのか。それは、どんな状況でも甘えや妥協を許さず、行動指針に従って自らの行動を選択できる強さや高潔さがあるからだと思います。レッドハリケーンズの選手たちにも、そのレベルを要求していくつもりです。

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画像)NTTドコモレッドハリケーンズ提供

また、行動指針の1つでもある「当たり前をあたりまえにする」ことを、私はミーティング時に選手たちに何度も伝え、「良いチームは選手のロッカールームから違いが出てくる」という言葉を添えて強く要求しました。

その理由はなぜか ―
チームにとって、「戦いに出発する場、つまり基地だ。それがロッカールームという空間。基地が乱れていては良い戦いはできない」ということです。

これについては、横浜F・マリノスを指揮していた時代にJ1リーグ2連覇という偉業を成し遂げ、2010年サッカーワールドカップ(南アフリカ大会)ではサッカー日本代表(男子)を指揮して過去最高のベスト16へと導いた岡田武史氏も同様の考えを持っていました。

まさに、こうした事例からもわかるように、当たり前の繰り返しがチームの基準を引き上げ、少しの妥協も許さない風土を作り上げます。

結果的に選手たちのベクトルが1つになり、各々がチームから何を求められていて、どのようにチーム貢献すべきかと考えられるようになり、最終的に団結した戦う集団へと変貌を遂げていきます。

ミッション・ビジョン・バリューの共通認識こそ、チーム構築の第一歩

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さて、今回のミッション、ビジョン、バリューに関するテーマはいかがでしたか。

今のレッドハリケーンズが何を大切にしているのか、どのような想いでグラウンドに立っているのか、をまた違う角度からお分かりいただけたのではないでしょうか。当たり前の基準を引き上げていくことで、エンブレムにプライドをもつ集団へと高めていくのが私の使命です。

私たちはどんな未来に共感した集団なのか(ミッション)、そのためにどのような姿で、何を成し遂げたいのか(ビジョン)、実現のために個々はどんな価値観を大切にして行動選択するのか(バリュー)という共通認識、それこそがチーム構築の第一歩です。

冒頭お伝えしたように、今、一丸となって選手一人ひとりが「なぜラグビーをしているのか」「なぜ今グラウンドにたっているのか」を自問自答し、必死にラグビーと向き合っております。

開幕節でチームが見せた戦う姿勢、諦めない姿勢、1%の可能性を信じてチーム一丸となって相手に向かっていくということ。ピッチ狭しと走り回り、身体を張ったディフェンスで勝機を伺う。 アグレッシブなレッドハリケーンズのラグビー、選手一人ひとりのプライドをかけたプレーをぜひ見てください。そして、引き続き、熱い応援・サポートをお願いいたします。

今シーズンのホームゲーム初戦、ヤンマーフィールド長居で行なわれる第2節「NECグリーンロケッツ」戦も、皆さんからの熱い声援、鼓舞するメッセージ、ぜひとも宜しくお願いいたします。

Profile(プロフィール)

福富信也(ふくとみ・しんや)
Jリーグ「横浜F・マリノス」のコーチを経て、2011年東京電機大学理工学部に教員として着任(サッカー部監督兼務)。また、その傍ら、チームのメンバーが互いに違いを認め、尊重しあい、永続的に学びと発展のあるチームづくりを支援する株式会社Humanergy(ヒューマナジー)を2015年に設立。

【実績 等】
日本サッカー協会公認指導者S級ライセンス(Jリーグ監督必須ライセンス)で講師を務め、Jリーグトップチームや年代別日本代表を指導。2016-17シーズンに「北海道コンサドーレ札幌(J2優勝|J1昇格・定着)」、2018-19シーズンに「ヴィッセル神戸(天皇杯優勝:ACL 出場権獲得 / ゼロックススーパーカップ優勝 等)」。その他、企業を対象にした研修実績も豊富。雑誌連載、新聞取材、テレビ・ラジオ出演など多数。著書に「個」を生かすチームビルディング(2013)/「勝つ」組織(2015)/脱トップダウン思考(2019) がある。

参考)
2020年度チームアドバイザー就任のお知らせ https://docomo-rugby.jp/news/detail.html?id=4202
株式会社Humanergy: https://huma-nergy.com/